雪 Snow
- On 2017年2月18日
昔、いわゆる豪雪地帯に医師として赴き、次のドクターがなかなか見つからないということで、1年半(通常は半年交代)働いたことがあります。
赴任直前に、東京の某大学病院のNICU(新生児集中治療室)で、最先端の医療機器に囲まれ、最先端の治療に明け暮れていた自分が、病院には最低限の設備しかなく、見渡せば田んぼ、冬にはあたり一面真っ白な雪、村のレジャーは、日が落ちれば、喧嘩とパチンコくらい~~みたいな場所に急に勤務となりました。本当に初めての経験が多かったけど、自分は割りと図太いらしく、男性医師でも半年限界と噂されるその雪国の病院に、1年半結構平気で勤務していました。
患者さまには、同じ苗字の方がずいぶん沢山おられるので、下のお名前でお呼びする。本家や分家の上下関係を常に意識する。医学用語も地元特有の方言でお話する。吹雪の夜は、医師住宅と病院が1メートルしか離れてなくても、病院内に待機する。(そのたった1メートルでも、風雪の酷さと視界の悪さで、自力で歩けないから) 吹雪を超え、遠くで雪崩の音を聞きながら(恐怖!)、時にはジープを乗り捨て、膝上までの長靴を履き、自分の脚で歩いて、山を超えて往診をする。普通の雪でも、1時間も車を外に放置すれば、車がすっぽり埋まる。あまりに大雪なので、雪掻き・雪降ろしでなく、雪堀りと呼ぶ。家の1階が完全に雪に埋まると、2階の冬用扉から出入りする。夜の雪道は、よく酔っ払いが側溝に落ちる。冬場の夜間診療は、その側溝に落ちた残念な村人か、大酒食らって大喧嘩した猛者たちの勲章のような深い傷を縫い合わせるのに忙しい。 などなど。。。
大変なことの方が多い雪国の赴任期間でしたが、私はその赴任期間に、生まれて初めてスキーを覚えました。真っ白な雪山の斜面を、冷たい冬の風を全身に受けながら、吸い込まれるように滑降していく時、すべてを覆い尽くす、しかし時には人の命さえ奪うような秘めた力を持つ、その雪の美しさに何度も息を飲んだものです。
Falling silent snow blankets the whole village. Its beauty concealing a terrible inner force. I watch it holding my breath.